2013年09月05日

約束

夏も終わりに近づいているある日、僕はある湖の湖畔に立っていた。
この湖は人造湖で湖底には村が沈んでる。回りは鬱蒼とした森に囲まれていて狐や狸や梟が棲んでいる。
僕はこの湖を散策するのが好きだ。僕達が子供のころに駆け回った野山の風景が今も残っている。
湖畔に立っていると湖面がキラキラ光ってそこをつたってきた風が心地よい。森の中の木陰は真夏でもひんやりしていて気持ちいい。
「そういえば近くにレストランがあったな。クローズしてからずいぶんたつけどどうなったんだろう?」
昔に行ったことのある思い出のレストランだ。
誰もいないはずのレストランに灯りが灯っている。そしてドアにはOPENの文字、僕は思わず扉を押して…
そんなことを想像しながら湖畔を歩いているとだんだん空模様が怪しくなってきた。
近くのベンチには屋根がついている。ベンチに向かって歩き出すと大粒の雨が落ちてきた。
ベンチに付いたころにはどしゃ降りになった。

「ふぅー」濡れた顔を拭きながらベンチに腰掛けて遠くをぼーっと眺めていた。
そのとき隣に何か気配を感じて僕は振り返った。
しかしそこには誰もいなかった。
「思い過ごしか」そう呟いて向きなおったときに足下から声が聞こえてきた。
「森に新しく来た きじろ って知ってる?」「ううん、どうしたの?」
僕は耳を疑った。「すずめがしゃべってる!」すずめだけじゃない、耳を澄ますといろんな声が聞こえてくる。「急に雨が降ってきたね。」
驚いて横を向くとそこには河童が座っていた。
「こんにちは」笑顔でそう話しかけてきた。「こんにちは」僕も答えた。
「あなたはよくここにきてるわね」「うん、ここが好きだから」不思議と怖くもないし、気味悪くもない。楽しいような嬉しいような感覚だ。
「びっくりしたでしょ、声が聞こえてきて」「私たちは鳥の言葉も虫の言葉もわかるの」
僕は目が合いそうになって思わず下を向いた。すると僕の手は緑色に変わってきて、指には水かきが出来てきた。
そう、僕は河童になっていったんだ。背中に甲羅、頭にはお皿、口はくちばしに。
となりを見ると彼女は嬉しそうにこっちを見ている。
「どう?河童になった気持ちは?」
「うん、なかなか悪くないよ」
そう言うや否や、彼女は僕の手を取って湖に飛び込んだ。僕も一緒に湖に入って湖底へと向かった。すいすい泳げるし息も出来る。
どんどん潜っていくと建物が見えてきた。どうやら河童の村らしい。
彼女は僕の手を取って家の中で招き入れた。部屋の中に入ると僕の身体は人間に戻った。
そして彼女は...人間と同じ姿をしている。
「水の中にいないときはあなた達と一緒よ」そう言うと隣の部屋に歩いていった。
「こっちへ来て」呼ばれて、僕は隣の部屋へと入っていった。
「どうぞ」そこにはコーヒーとケーキがあった。
「召し上がれ」美味しいコーヒーだ。
「これ私の宝物」彼女の手を見ると両手にギターを持っている。
右手にはこげ茶色のギター、左手には赤い夕日のような色のギターを持っていた。
「いいでしょう」得意げに彼女は言った。
2本ともとてもきれいなギターだった。
「弾ける?」
「うん」
僕は彼女のギターを手にとって少し弾いてみた。とても弾きやすいギターた。
「どう?」
「うん、いいギターだ」
「良かった」「こっちが"K"でこっちは”B”なの」
「え?名前?」
「そう」
と嬉しそうな顔で説明してくれた。
「もう1本黒いギターがあるといいね」
「そう?そうね、それはいいわね」
コーヒーを飲み終えると
「そろそろ帰らなくちゃね」彼女が言った。
「うん、そうだね。」
でも本当はもう少し彼女と一緒にいたかったんだ。彼女は僕の手を取って扉の外へ...
彼女と僕はまた河童になって湖を上へ泳いでいった。

僕が湖から上がると、彼女は湖を泳ぎながら、
「楽しかったわ」と手をふった。
僕も手をふって
「また会える?」彼女は微笑みながら湖の中へ帰っていった。
僕は何度も振り返りながら湖をあとにした。

朝起きると雲一つない青空が広がっていた。
僕はまたあの湖へと出かけた。
待っていても彼女は来なかった。ずずめもただ「チュン、チュン」鳴くだけだ。
また次の日も彼女は来なかった。その次の日も、そのまた次の日も。

そして1週間が過ぎ、2週間が過ぎていった。毎日良く晴れて雨は全く降らなかった。
僕は毎日湖にやってきた。
湖の水もだいぶ少なくなったように思えた。「大丈夫かな?干上がったりしないかな?」
と考えていると
「だいじょうぶよ、明日は雨がふりそうだから明日また来てね」
彼女の声だ。あたりを探したけどどこにもいない。
「わかった、明日また来るね」
彼女からの返事はなかった。

次の日起きると朝から雨が降っていた。
「本当だ、本当に雨が降った」
僕は急いで湖に向かった。
そこには彼女が待っていた。あの時と同じ微笑を浮かべて。
「待った?」「ううん、今来たばかりよ」「さあ、行きましょう」
僕の手を取って湖に入っていった。
二人で湖を泳いでいくとすぐに彼女の家に着いた。
僕は部屋のソファーに座って彼女を待っていた。
安心したからか急に眠くなってきた。
「少し休んだら。」「今コーヒーを入れるわね。」
そう言って部屋から出て行った。僕はすぐに眠りにおちた。
「コーヒーが入ったわ」
「うん」目を開けるとそこは僕の家だった。
「ソファーなんかで寝ちゃって」
そこには優子が優しい顔でたっていた。
起きてコーヒーを飲みながら「夢だったんだ...」と思っていると
「夢じゃないよ」
「なんか言った?」
「なに?なにも言ってないわよ」と笑いながら
「どう?見て」
そっちを見ると彼女は黒いギターを抱えて笑っていた。
「欲しいって言ってたでしょ、だから」
彼女の後ろにはこげ茶色と夕日のような色のギターがあった。


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posted by BIRD at 12:32| 埼玉 ☔| Comment(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年09月03日

僕にとって、空というと水平線の向こうにある空だった。悲しいことや嬉しいことがあると必ず海岸へ行って、波の音を聞きながらキラキラ光った海、その向こうにある青い空や白い雲を見ていた。空気の澄んだ日には水平線の向こうに富士山も見えた。そんな海や空が大好きだった。
今、僕は埼玉県に住んでいる。
今日僕は空を見上げた。
こんな風に空を見るのは何年振りだろう。
そこには真っ青できれいな空が広がり、白い雲も浮かんでいた。
「ああ、何にも変わってなかったんだ。ほんの少し景色が違ってただけなんだ。」

海は無いけど、空は昔と同じ、変わってない。
なんでこんなことに気がつかなかったんだろう?それでも空は青く白い雲が浮かんでいる。

でも「幸せ」に気がつかなければ、幸せは無くなってしまうかもしれない。

楽しいことを大事にして、嬉しいことには感謝して、悲しいこと…はつらいけど受け入れよう。
大切な、愛する人のためにも。
そしてちょっと勇気をだして一歩前に歩きだそう。

きっとその勇気は空や海そして母なる大地が与えてくれるから。


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posted by BIRD at 11:49| 埼玉 ☔| Comment(3) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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